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取材コラム 第27回:山口孝二郎氏
- 2021/11/4
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「漢方によるオーラルフレイル改善こそ、健康長寿への道」
口腔外科専門医、医療法人ハヤの会 歯科慢性疾患診療室部長、昭和大学医学部生理学講座生体制御学部門 客員教授 山口孝二郎氏に聞く
口腔外科の分野で、早くから漢方医学を取り入れて臨床の場で実践してきた山口氏。2012年、鹿児島大学病院に新設された漢方診療センターにおいて副センター長を任され、漢方を研究してきた。ときに、西洋医療で行き詰ったときのブレイクスルーになるという。近年、多くの生薬の作用メカニズムが解明されてきたことで、今後の健康長寿への大きな役割を担うのではないかと期待している。
「とくに漢方の効果が期待できるのが、オーラルフレイルですね。五苓散や補中益気湯など、その作用機序が具体的に解明されてきているので、治療にも積極的に取り入れています」
要介護に向かうフレイル(虚弱)の前兆として「オーラルフレイル」が表れることが多い。舌の筋肉が落ち始めて、飲み込みづらい、食べこぼす、誤嚥しやすい、滑舌が悪くなるといった口腔機能の衰えが表れるが、目立たないので積極的な治療を促されることは少ないという。
「しかし、オーラルフレイルを放っておくと、しっかり食べられなくなって低栄養状態を招き、やがて全身の筋肉の衰えにつながります。貝原益軒の『養生訓』にも記されているように、60歳を過ぎたら消化機能を守ることが重要になってきます。その消化機能の入り口はまさに口腔で、口を守ることで身体を養う栄養をしっかり取り入れることが健康の要なのです」
胃や腸は気遣うが、案外、口には気が回らないものだ。しかし考えてみれば、口腔機能が健康でないと、身体の健康は維持できない。
歯科で活用できる漢方は、他にもある。黄連、黄芩など抗菌作用のある生薬、嚥下反射を高める半夏厚朴湯、歯痛に効く立効散など、口内炎や歯痛、中高年の女性に多い舌痛症といった西洋薬で対処できないようなケースに、漢方薬が役立つことは多いという。
「人によっては鎮痛剤が使えない、あるいは効かないケースがあります。そもそも鎮痛剤は熱を冷まし、炎症や痛みを抑える薬ですから、冷えやすい体質の人には効きづらい、また自律神経のバランスが崩れて痛みが起こっている人にも、鎮痛剤は効かないことが多いのです。こういう場合に漢方は役立ちます。基本的に、西洋薬には温める薬はほとんどありませんが、漢方は身体を温め、血の巡りを良くすることが最も得意とするところですから」
高齢者人口が最大となる2040年問題を見据えて、歯科が果たせる役割は何か。それは健康のゲートキーパーとして、オーラルフレイルをコントロールしていくことだという。「そのためにエビデンスの確かな漢方薬を上手に取り入れていくことが有効です。これは医師と歯科医が連携して使えるツールです」
氏は2018年、漢方医学を体系的に学べるよう『歯科漢方医学』を編纂した。
ジャーナリスト 後藤典子