取材コラム 第19回:黒川貞生氏

黒川貞生氏

「高齢になってから、なぜ筋トレをすべきなのか?」
明治学院大学 教養教育センター教授 黒川貞生氏に聞く

バレーボール競技において、選手として、コーチとして、また研究者として関わってきた黒川氏の功績は、バレーボールという競技の発展と意義に大きく貢献してきたが、今、その実績を活かして、高齢者における身体運動の有用性を、ロコモティブシンドロームやメタボリックシンドローム、認知機能などについて検証を始めている。同時に、こうした健康問題を「環境問題」という視点でとらえながら、次代を担う学生たちに提示している。


「私の専門は、バイオメカニクス、運動生理学といったスポーツ科学ですが、アスリートのパフォーマンスを上げるための研究成果を、一般のより多くの人々に活かすための取り組みを始めたところです」

今、コロナ禍で介入研究が中断しているが、高齢者を対象にしたロコモやフレイル、認知機能の低下を防ぐための身体運動について、新たな研究を始めたという。

「何ごともそうですが、なってからでは遅いのです。なる前に、運動で予防する方法を身につけることが大切。このとき、どんな運動がより有効なのかを研究し、自律的に実践できるように指導していきたいですね」

たとえば、高齢者のフレイル予防のためには、ウォーキングやエアロビクスなどの有酸素運動よりも、スクワットなどの筋トレを行って下肢を鍛えることが優先されるという。

「高齢になってからでも、筋トレは有効なのです。毎日の習慣に取り入れていくことで、筋肉は貯えられていきます。使わない筋肉は衰える、と言ったのはヴィルヘルム・ルーという学者ですが、筋肉は使えば使うほど貯まるのです」

とくに日本人は世界の中でも座っている時間が長い国民だ。座っている時間が長いほど、健康リスクが上がるという報告もある。とくに在宅を強いられる機会が増えている現状では、さらに筋肉を使う機会は減少している。

「まずはスクワット15回を3セット行うことをすすめます。とは言っても継続できないという方のために、1つアドバイスを添えるなら、筋トレをする目標を掲げることです。5年後、10年後、自分が何かの目標を達成するために筋トレを実践するのだという意識を持つか持たないかが継続の分かれ目です。そして毎日、体重計で筋肉量をチェックして、筋肉を増やしているという実感を持つことです」

高齢者の健康は、労働力や医療費の問題と関わる社会の「持続」に大きな影響を及ぼす、身近な「環境問題」だと、黒川氏は言う。私たち一人ひとりの健康への意識が、社会の持続性に大きく関与しているという自覚をもって毎日を送りたいと思った。

ジャーナリスト 後藤典子

黒川氏の取材動画はこちら

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