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取材コラム 第5回:福生吉裕氏
- 2020/9/9
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「未病の認識が、国民皆保険制度の持続につながる」
日本未病総合研究所 代表理事 福生吉裕氏に聞く
「盗人を捕らえて縄を綯う」とか「渇して井を穿つ」という言葉があるが、これは日頃何の準備もせず、事が起きてからあわてて準備をしても間に合わないことのたとえ。これはまさに生活習慣病に当てはまる。手遅れになる前に手だてを講じる「未病」という概念の重要性を訴える“現代未病の草分け的存在”である福生氏にお話を伺った。
「私が最初に“未病”に興味を持ったのは医学生の頃、『黄帝内経』に出てくる”聖人己病を治さず未病を治す”という言葉を見つけたときでしたね」
約2000年以上前、後漢の時代に記された古い医学書にある「未病」という概念が、現代の医療経済システム、ひいては国民皆保険制度の持続につながると福生氏は言う。
「今の医療では、健康か病気か、の二つしかないのですが、その間に“未病”という領域を設けることで、今後の医療政策を変えることができると考えています」
つまり、病気になればいつでも保険を使って医者に診てもらえるから安心、という社会保障システムに頼りきった発想では成り立たなくなっているという現状がある。病気になるまで放っておくのではなく、その前に自分の心身の変調に気づき、”未病”の領域で修正できるところを修正していくという自己管理の姿勢が求められるのである。
「”未病”のうちから、病気に向かわないようにしていくためには、自分が自分の主治医であるという意識が大切なのです。これが現代未病の神髄。医者が治すのではなく、自分が治すのだという心構えがあるかないかで、未病ケアのあり方は違ってきます」
たとえば高血圧や高血糖、高脂血症など、いわゆる生活習慣病は、健康状態から病気に向かってシームレスにつながっている。薬や医療の世話になる前に気が付いて、健康に戻すことができる病気である。そのための手立ては、自らの生活習慣の改善以外にない。
「自分の生活習慣が原因で病気になっても、日本の保険診療で治しましょうというシステムが、気づけば今の医療財政の圧迫につながっているのです。必要なのは、未病ケアの主体は誰かということの認識と教育です」
「ただし、未病にも医療保険で対処する部分もあります。たとえば無症状でも、画像診断で脳梗塞や脳動脈瘤がある場合や、腹部エコーで脂肪肝などが認められた場合などは、医療介入が必要となります」
このように器質的変化や臓器障害がある場合には医療が関わる必要性があるが、そうした異常がない場合は「自分で守ることができる範囲」としてセルフプリベンション(自己予防)を実践してこそ、国民皆保険というすばらしい制度の維持につながると、福生氏は言う。
一人一人の未病ケアが、自身の健康長寿と幸福だけでなく、社会保障システムの健全化を支えていくのだという自覚を、私たちは持たなければならないのだろう。
ジャーナリスト 後藤典子