取材コラム 第20回:堀江重郎氏

堀江重郎氏

「医療がすすめる“良い”治療が、大きなお節介になっていないか?」
順天堂大学医学部泌尿器科学教授 堀江重郎氏に聞く

ロボット手術「ダヴィンチ」の妙手として世界でも高い評価を受ける堀江氏。日本で初めての男性医療「メンズヘルス外来」を立ち上げた経歴でも知られている。従来の慣習や常識にとらわれない自由さと実行力を持ち、常に最先端の医療を捉えながらも、そこに見落とされがちな”人としての生き方”を探求する。その姿勢が、死に直面した多くの患者さんの心を救ってきた。この長寿社会における医療のあり方について、示唆に富むお話を伺えた。


「当時は、男性更年期なんてものはない、というのが常識だった時代ですから、男性医療外来を立ち上げるというと、周囲からずいぶん怒られましたね」

そんな周囲の批判を跳ねのけたのは、東大病院救急部での研修生時代の経験だった。「今、目の前の患者を救うという医療ですから、ある意味、ヒエラルキーから脱した場なんですね。つまり、医療の概念がどうであれ、患者が求めているから応えよう、というニーズに応じた判断をしなければならないのです」

欧米の病院にはあたり前の「男性科」が、日本にはなかった。「たかが更年期障害」と軽く見る風潮もあった。しかし堀江氏は、男性ホルモンの低下に起因するさまざまな疾患の重大性と、治療の必要性を説いた。

また専門の泌尿器科では、腎臓がん、前立腺がん、膀胱がんなどのロボット手術の卓越した技術をもち、世界のトップレベルにいる。常に最先端の医療を追究しているが、専門医療が陥りやすい弊害にも目を向ける。

「角を矯めて牛を殺す、ということになっていないか、と問うています。こちらが良いと思う医療が、患者さんにとって良い医療とはかぎらないのです。たとえば、がんの先進医療では微細ながんまで発見できるようになり、早期治療で手術しましょうと勧めるが、これは大きなお節介かもしれない。あるいは、いくつかの専門医にかかり、それぞれの分野ごとに標準的な正しい医療が行われれば、どうなるのかということを考えなくてはいけない。たぶん大量の薬が処方され、はたしてそれを服用することが良い治療になるのか、ということです」

氏は、がん治療における在宅医療の可能性をもっと広げていくべきだと提唱している。なぜなら、入院治療より在宅の方がはるかに長生きするからだ。そのわけを、マザー・テレサの言葉を引用して教えてくれた。「人間にとってもっとも辛い病気は孤独です」――この言葉をかみしめながら、私は自分の最期を思い描いてみた。

ジャーナリスト 後藤典子

堀江氏の取材動画はこちら

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