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取材コラム 第17回:江本三男氏
- 2021/4/15
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「ヒット商品の背景にある、見えない技術力」
日本食品技術(株)代表取締役、元大塚食品(株) 江本三男氏に聞く
大塚グループはこれまで、いくつものパイオニア商品を世に出し、しかもそのほとんどがロングセラーを維持している。数十年にわたり消費者の支持を得てきたそうした商品には、コンセプトの的確さに加えて、卓越した技術力がある。普段、消費者が意識しない商品開発における技術分野で、大きな貢献を果たしてきた食品技術士の江本氏に、開発にまつわるお話を伺った。
大塚製薬を代表する商品の一つに「カロリーメイト」があるが、その源流は1979年に発売された医療用の栄養補給材「ハイネックス」だ。病者の健康回復を目的に開発された。
「ハイネックスは、日本人の栄養所要量を基本に、5代栄養素の一日所要量をまかなえるように設計されたもので、じつに多くの素材を用いなければならず、それらをうまく混ぜ合わせて、長期間にわたり安定させるのは、大変難しい取り組みでしたね」
もともと異質な水と油のような物質を混ぜる技術、混ぜた素材が時間の経過や衝撃、温度変化などで分離したり、固まらないようにする高い乳化技術が要求された。
「そろそろ新製品のための工場が完成しようという頃に、試作品に凝集が起きたんですよ。これを解決するために、実験室に泊まり込む日々が続きましたね。何が原因なのか、一つずつ素材を確かめながら、根気のいる作業でした」
試行錯誤の末、ようやく優れた安定性を確保し、牛乳状の液体に仕上がった。
「ただ、味はあまり評判が良くなく、最後まで課題でしたが、ゼリーにすることでようやく解決できました」
江本氏が手がけたもう一つのロングセラーは「マンナンヒカリ」だ。きっかけは、産婦人科の医師からの相談だった。
「妊婦さんが、妊娠後期になると太りやすく、また便秘になりやすいことが問題だというのです。そこで、低カロリーで食物繊維の多い食品を、しかも毎日食べられて飽きのこないものがよいということになり、低カロリーのご飯を作ることになったのです」
この開発は難問山積だった。ご飯の淡白な味を表現することの難しさ。お米の色、形、匂い、そしてコストの問題。すべてをクリアするのに優に5年を要したが、他の追随を許さない自信作となった。しかし、江本氏にとって一番大きな難問は「販売」にあった。
「技術屋は、いいものができたら売れるはず、と考えます。しかし実際はそうはいかない。この商品の良さを知ってもらうために、病院の栄養士さんたちの勉強会を開いて、大いに営業に行きましたよ」病院食としてスタートし、退院時に病院の売店で購入してもらい、家庭に届く。その後、町の薬局で買ってもらう、という流れを作った。
今なお売れ続ける商品を支える土台に、見えない技術力が隠れているのは確かなようだ。
ジャーナリスト 後藤典子