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取材コラム 第16回:許鳳浩氏
- 2021/4/1
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「バランスの医学・中医学を、セルフケアで活用する」
元金沢大学大学院 医薬保健学総合研究科 特任助教 許鳳浩氏に聞く
中国で循環器の内科医として医療に携わってきた許氏が、日本に研究留学して出会った代替医療。自国の中医学と向き合って、伝統医療の新たな可能性に気づかされたという。西洋医療と伝統医療の長短、また中国と日本の医療文化の違いを眺めながら、中医学(または漢方)のセルフケアへの応用について、今、さまざまな取り組みを行っている氏に、これからの伝統医療の役目について伺った。
「現代医療の発展が、現代人の寿命を押し上げたことに疑いをはさむ余地はありませんが、近年は疾病構造のパラダイムシフトが起きていますね。目下の新型コロナの状況は特別なケースですが、かつての感染症中心の病態から、生活習慣病中心の病態に変わってきたことで、集団医療から個別化医療へとシフトしています」
感染症の場合は原因を究明し、その原因物質を退治するという1対1の関係性だが、生活習慣病では原因は多岐にわたり、個々人の状況によって変化する複雑なものになっている。遺伝子研究による個別化医療の提示も、こうしたパラダイムシフトの表れだ。そんな中で、なぜ伝統医療が注目されているのか。
「そもそも西洋医学の思想は要素還元的で、集団における平均値を出そうという方法論です。期間や対象者を決めて臨床試験を行い、その結果を統計解析することで汎用性の高い解答を導き出そうとします。これに対して中医学や漢方は、言ってみれば数千年という長いスケールで臨床試験をやっているようなもので、その中から優れた個別症例が今に伝わっているのです」
ただ、その個別症例のエビデンスが解明されていないことを現代医学から指摘されてきた。ときには20種類以上の生薬を組み合わせて用いるので、どの成分が、体内でどのように作用しているのかはブラックボックスなのだ。が、現在、それらのデータをスーパーコンピュータでシミュレーションし、オミックス研究が進められているという。
「私たちの体は、暮らしている環境からも多くの影響を受けて、いつもシーソーのように揺れ動いているとても複雑なものです。その影響は年齢によっても、体格によっても異なってきます。中医学は”バランスの医学”といわれますが、そうした揺れ動く体のバランスが崩れて病気になる前に修正するための知識なのです」
これまでの症例研究が進む中、より明確なエビデンスが示されれば、だれもがセルフケアの知識として活用する時代が来るかもしれない。大いに期待したい。
ジャーナリスト 後藤典子