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取材コラム 第15回:中嶋茂氏
- 2021/3/18
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「食卓の食べ物の機能性こそ、成人病の予防薬」
元厚生省食品衛生行政担当技官 中嶋茂氏に聞く
日本は80年代に入って、生活水準の向上にともない平均寿命が大幅に延びた。また、この高齢化によって成人病の増加が際立った。そんな時代に、人々の意識は「もっと健康で長生きしたい!」という健康志向に向かう。そこに登場したのが健康食品だ。その後、40年にわたり、健康食品の影と日向を見てきた元厚生省の担当技官である中嶋氏に、機能性表示食品の制度誕生にまつわるお話を伺った。
「健康食品が最初にブームになった80年代は、無法地帯でしたから、がんが治るとか痩せるとか、言いたい放題で、国民生活センターに多くの苦情が寄せられていましたね。またマスコミが添加物や農薬などの食品の危険性を盛んに報道していましたから、健康食品への風当たりも強くて。まあ、これは取り締まる必要があるだろうということで、国家レベルの実態調査を行うことになったわけです」
きっと何か健康被害を招くリスク因子が見つかるだろうと始めた調査だった。が、その目論見は空振りに終わった。分析結果はほとんどが「安全」で、問題はなかった。むしろ問題は「虚偽誇大表示」にあった。
「つまり製造販売者が、自分たちで襟を正さなければならないということで、業界団体を作って自主規制を始めたのです。それがJHFAマークです。製品としての品質や安全性の基準を設け、虚偽誇大な広告への規制も整っていきました」
しかし、氏が本当に目指したのは、規制ではなく、食品の活用だった。当時の増大する医療費と成人病に対し、食品が持つ機能性を活用して予防しようという道筋だった。
「世の中に、成人病の予防薬はありません。ならば、食品の機能性を活用すればいいだろう、ということで制度をつくることにしたのです」
1986年に「Functional Food(機能性食品)」という造語を初めて世に提唱し、食品機能の系統的解析を、世界に先駆けて行うことになった。が、任期が終わり、氏の志は後任に託され、程なくして「トクホ」の制度ができあがった。ただ、残念ながら、成人病予防の当初の目的を達成したとは言い難い制度となった。
「毎日の食卓に上る食品の制度でなければならないのです。生活者が自分の予防を、食生活の中で考え、行えるような制度を目指すべきだと思っています」
そのために「食の効能普及会議」を立ち上げ、「日本予防医学会」を創設して医者に食品機能の重要性を訴えてきた。ようやく2015年に「機能性表示食品」の制度ができたが、氏の目指す目標達成はまだこれからだ。さらなる挑戦を追いかけたい。
ジャーナリスト 後藤典子