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取材コラム 第3回:水上治氏
- 2020/9/7
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「日本人に合ったがん医療を求めて」
健康増進クリニック院長 水上治氏に聞く
年間37万人ががんで亡くなる。世界でもトップクラスのがん大国である日本だが、がん治療のありさまは、決してうまくいっているとは言えない。「がん難民」と言われる患者であふれ、がん告知後の自殺率が欧米の8倍になる。こうした状況を理解し、がんや難病の患者と向き合ってきた水上治医師にお話を伺った。
「今、がん告知は当たり前になっていますよね。でも、ある論文を読んで驚いたんですが、告知後1年以内の自殺率が通常の23.9倍になっているというんです。はたして米国流のこの告知文化は、日本人に合っているのかどうか?と悩みましたね」
かつて総合病院でがん治療に従事していた水上氏だが、西洋医学の分析的な考え方に限界を感じ、人間丸ごとを見る医療の必要性を痛感して、現在の「健康増進クリニック」を開設したのが2007年。それからは西洋医学の長所を生かしながら、漢方や栄養療法などさまざまな伝統医学や代替療法を取り入れてきた。
「がんを告知するとき、伝える内容が正しいかどうかではなく、相手の立場を思いやった物言いができるかどうかが大切なんです。がんだと知って〝限界状況”に陥った患者さんに向かって、『ステージⅣです。手遅れですね、余命1年です』というのか、『大丈夫、治ります。一緒に闘いましょう』というのか」
そこに、カルテの数値には出てこない患者の「こころ」を慮って対話することをモットーとしてきた水上流の診療用語がある。
「確かに、がんに対して免疫力は重要なキーワードですが、私はこれを患者さんに話すとき“生命力(いのち)”と言っています。『少しずつ、いのちを上げていきましょう』と話すんです」
生活習慣の見直しや、自分に合う漢方薬やサプリメントを見つけることは、「いのちを上げる」良い材料になる。「これをやっているから、きっと大丈夫」という心の支えになる。
「人は希望があるから生きられるんですよ。伝統医学や民間療法にエビデンスがないと言って軽視する医者がいますが、現代医学で言うエビデンスはなくても、良い結果を得られた実績はあれば、可能性はあるんです。標準治療が効かなければ終わり、ではないという『希望』がそこにあるから、頑張れるんです」
「そして私たちは皆、いつか必ず寿命は尽きるんです。『死は医療の敗北』という考え方では、きっとがん治療を全うできません。『クオリティ・オブ・デス』という言葉がありますが、どう尽きるか、そのプロセスが大事なんです」
誰もが、がんで死ぬリスクのあるこの時代に、「敗北」と捉えず、精一杯生きていける道を示してくれる医師に出会えたら、幸せかもしれない。
ジャーナリスト 後藤典子