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山野善正氏『魚介類豆知識:刺身について』
- 2017/4/21
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協会では、医師や専門家による鋭い視点で捉えた、健康と食に関する様々なコラムを掲載しています。今回は、一般社団法人おいしさの科学研究所理事長の山野善正氏に、「魚介類豆知識:刺身」について語っていただきました。
山野 善正Yoshimasa Yamano
一般社団法人おいしさの科学研究所 理事長
滋賀県生まれ。京都大学農学部農芸化学科卒業、農学博士。
東洋製缶東洋鋼鈑綜合研究所研究員を経て、香川大学農学部食品学科講師、助教授、教授。評議員、学生部長、農学部長。退職後2005年より現職。この間、アメリカ、オランダ、オーストラリアの大学で研究。専門は食品物理学。フィルム包装食品の加熱殺菌、食品コロイド、エマルション、テクスチャーについて研究。テクスチャーの研究で、食品科学工学会賞受賞。食品企業、化粧品企業等の顧問、種々の公的委員を歴任。また、民間時代レトルトパウチ第1号“崎陽軒のパック入りシュウマイ”の開発を担当。著編書にコロイド、テクスチャー関連専門書の他に、「おいしさの科学(編著)」(朝倉書店)、「おいしさの科学事典(編著)」(朝倉書店)、「おいしさの科学がよーくわかる本」(秀和システム)、「うどん王国さぬきのおいしさ」(おいしさの科学研究所)等がある。
「魚介類豆知識:刺身について」
畜肉も一部刺身として食べることはあるが、一般には刺身といえば魚である。実は、地上の動物は、陸上で力のいる運動をするため頑丈な筋肉がかかせない。そこで、畜肉には強い腱と多くのコラーゲンが含まれ、その結果、肉質が硬くなる。一方水中に浮いている魚の肉では、畜肉ほど丈夫な腱やコラーゲンが必要でなく、生の刺身として食べやすいというわけである。
奈良時代に生魚の調理が行われていたというわが国は、刺身の天国である。お祝いの席などでは、“刺す”という言葉は縁起が悪いので、“つくり”と呼ぶこともある。
刺身として好まれる魚種は、関東はマグロ、関西ではタイにハマチとされてきたが、人の移動が多い現在では、この嗜好の偏りは薄れている。また、活き造りという言葉があるように、テクスチャー(歯ごたえ)がおいしさの重要な要素になっている。魚は時間が経つと、酵素によりたんぱく質の分解が進み、成分や組織が変化する。その結果、時間が経つにつれ組織が弱くなりやわらくなるが、アミノ酸などの味成分が増えうま味が出る。このうま味を担う主な成分は、昆布のうま味成分でもあるグルタミン酸とかつお節のうまみ成分とされるイノシン酸であるが、ペプチド、糖、有機酸、ミネラルなどもうま味の一端を担っている。
歴史的にみると、わが国ではおおざっぱに言って、関西では活き造りにみられるようにテクスチャーを、関東ではやや熟成した刺身のように味が貴ばれてきた。今でもこの傾向はみられるが、料理人や店で異なる。ちなみに、学生でも手の届く価格なので、筆者の勤めていた香川大学の学生も、コンパなどで、瀬戸内の天然または養殖の魚の活き造りを食していた。
歯ごたえの維持の点であるが、白身の魚(真鯛やヒラメ)は筋肉が軟化しにくく、背の青い魚(イワシ、アジなど)は筋肉の軟化速度が速く、歯ごたえを長く保つことはできない。したがってスーパーマーケットでは、後者の刺身は早い時間に割引価格になっているはずである。
なお、天然物と養殖の魚については、近年違いはかなり埋まっており、若い人は後者の方がむしろうまいと言ったりする。マグロの場合、煮るとその違いがはっきりすることもあるが、刺身の場合は見極めがつきにくいようである。
(大塚薬報No.724より転載)