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山野善正氏『和歌に見る日本人の食事』
- 2016/4/12
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協会では、医師や専門家による鋭い視点で捉えた、健康と食に関する様々なコラムを掲載しています。今回は、一般社団法人おいしさの科学研究所理事長の山野善正氏に、「和歌に見る日本人の食事」について語っていただきました。
山野 善正Yoshimasa Yamano
一般社団法人おいしさの科学研究所 理事長
滋賀県生まれ。京都大学農学部農芸化学科卒業、農学博士。
東洋製缶東洋鋼鈑綜合研究所研究員を経て、香川大学農学部食品学科講師、助教授、教授。評議員、学生部長、農学部長。退職後2005年より現職。この間、アメリカ、オランダ、オーストラリアの大学で研究。専門は食品物理学。フィルム包装食品の加熱殺菌、食品コロイド、エマルション、テクスチャーについて研究。テクスチャーの研究で、食品科学工学会賞受賞。食品企業、化粧品企業等の顧問、種々の公的委員を歴任。また、民間時代レトルトパウチ第1号“崎陽軒のパック入りシュウマイ”の開発を担当。著編書にコロイド、テクスチャー関連専門書の他に、「おいしさの科学(編著)」(朝倉書店)、「おいしさの科学事典(編著)」(朝倉書店)、「おいしさの科学がよーくわかる本」(秀和システム)、「うどん王国さぬきのおいしさ」(おいしさの科学研究所)等がある。
「和歌に見る日本人の食事」
日本の場合、おおざっぱに縄文期は狩猟・採集、弥生期は栽培により食材を確保したとされるが、現在列島に存在する食用植物ほとんどすべてが外国から伝来したものであり、固有種は非常に少ない。三内丸山遺跡のごみ捨て場で発見されたクリの残骸のDNA分析の結果、ほとんど同種であったことから、クリが最初の栽培食用植物ではないかといわれている。筆者が初めてアメリカで研究生活をした時、マーケットで変なキュウリを、また同じく変な白菜の芯様のものを見つけたことがある。何と前者はズッキーニ、後者はチコリという野菜だったのである。これは明治時代のことではなくほんの数十年前のことである。かように、古来、外来食材を移入し続け、それを日本の風土になじませてきたのである。現在でも外来種を移入しており、その結果我が国のスーパーマーケットに並ぶ野菜類の種類は世界でも最も多い国だと推測される。
君がため 春の野に出でて 若菜摘む
わが衣手に 雪は降りつつ
光孝天皇
世の人の 貴み願ふ 七種くさの
寶も我は 何せむに
山上憶良
このように、先祖は食する植物を歌にしており、生活に密着した文化生活を楽しんだのである。
少なくとも、宮廷人はそんな生活を楽しんだであろう。
庶民の生活に関する記録は残りにくいのであるが、紫式部の時代の宮廷人の祝宴の記録が残っている。京都は内陸であり、新鮮な海の食材は入手し難かったと思われるが、ある記録では、実に29種類の食材を食卓に載せている。冬季の食だと推測されるが、別の研究からも、魚介類鶏肉などの食材も、煮る、蒸す、焼くなどにより簡単に調理したものを、食卓に載せ、塩、酒、醤、酢などで味付けして食していたようである。
保存食として、塩漬け、糠漬け、糠味噌漬け、粕漬け、麹漬け、味噌漬け、醤油漬け、酢漬けなど、漬物を大いに利用している。
かように、大陸から伝来したとされる豆腐、こんにゃくなどを除いて、漬物以外は、ほとんど加工せずに生の食材を口にしてきたのである。このことが、自然を重要視し、自然と一体となって生活する文化を築いてきたといえる。
我が国は地球の中緯度に位置し、しかも南北に長い列島であるので、伝来植物、山菜、海の幸に恵まれた我々は自然に感謝する食生活を形作り、“いただきます” という言葉にあるように、他の命に感謝する自然児であり、世界に誇れる食文化を持っているのである。ユネスコ無形文化遺産に「和食」が認められたのもむべなるかなである。
(大塚薬報No.714より転載)